ウィズコロナの新生活様式の中、日本話し方センターのベーシックコースを受講される方のニーズがわずかながら変化してきています。コロナ前は「人前であがらずに話したい」という方が8割以上を占めていました。しかし、最近は「人に伝わる話しがしたい」という方が多くなってきています。

これは、在宅勤務の割合が増えて人前で話す機会が減ってきていることが影響しているものと思われます。もっとも話が苦手な人は話すこと自体に緊張するので、人前でのあがり症克服も伝わる話し方への改善も根本は同じです。自分が納得できる話し方ができるようになれば自信が出てきて緊張は抑えられます。自分が納得できる話をするためには、まず人に伝わる話ができるようにすることが肝要です。
人に伝わる話をする上で重要なことは「短く話す」ということです。聞いていて「長いなぁ」と思われる話にわかりやすい話はありません。
日本話し方センターのベーシックコースや2日間集中セミナー、オンライン短期集中トレーニングコースでは、話し方のトレーニング方法として、教室の前に立って2分間のスピーチを行っています。これによって人前で話す際のあがり症を治すことができます。またこの実習で「短くわかりやすく話す」訓練ができます。2分間という短い時間で聞き手に理解してもらえる話をすることはとても難しいことです。受講し始めた頃はほぼ全員が2分を30秒前後オーバーしてしまいます。つまり、話が長いのです。
わずか30秒くらいのオーバーならいいじゃないか、と思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし、実際に2分を超えるスピーチを聞いていると「長いなぁ」と感じます。それは話にまとまりがないからです。余計なことを話しているからです。では、どの部分が余計なのでしょうか。それは「前置き」です。
例えば、次のような話をするとします。
「高校時代の親友と会う日に寝坊してしまいました。あわてて家を出たので財布を忘れてしまい、途中で取りに帰ったので約束の時間に遅れてしまいくした。どんなに急いでいるときでも、落ち着いて身の回りを確認しないといけないと思いました」
こうした話をする場合に、次のような前置きを話す人が実に多いのです。
「その日は、山形の高校時代の親友7人と久しぶりに会うことになっていました。7人は同じクラブで、県大会出場を目指して高校3年間、元日以外は1日も休まずに厳しい練習に明け暮れました。努力の結果、県大会への出場を果たした時にはみんなで抱き合って喜んだものです。私が東京の大学に進学してからなかなか会う機会がなかったので『ついに会える!』と思うとうれしくてたまりませんでした。
しかし、前日遅くまで飲んでしまい、当日朝寝坊してしまいました。~」
実は、この前置きで必要なのは「山形の高校時代の親友7人で久しぶりに会うことになった。とても楽しみにしていたが、前日に飲み過ぎてしまい朝寝坊をしてしまった」という部分だけです。その他のことは、本人は話したくてたまらないと思いますが、聞き手にとっては不要です。このスピーチでは「急いでいる時でも落ち着いて身の回りを確認しよう」ということが言いたいのです。話をする場合、その話で言いたいことを意識し、それに関することに絞って話をしなければなりません。7人がどのように親しかったのかを詳しく述べる必要はなく、当日をとても楽しみにしていたので、寝坊をしたときにあわてた、ということがわかれば聞き手には充分です。
「言いたいこと」と「人に聞いて理解して欲しいこと」は別物です。しかし、残念ながら多くの人はこのことを意識せずに話をしてしまいます。人に伝わる話をするためには、まず言いたいことをしっかりと認識し、それに関することに絞って話しましょう。