日本話し方センターの各コースでお伝えしていることの一つに「話すことは考えること」という言葉があります。話し方を改善したいという人はいわゆる「話の仕方」「しゃべり方」のみを意識している人が多いように見受けられます。
・人前であがらずに話せるようになりたい
・相手に理解してもらえる話ができるようになりたい
・雑談などで会話が続けられるようになりたい
こうしたことを改善したいと考えている人は「うまく話すテクニック」を身につければ問題が解決すると思っているようです。しかし、話し方の改善にはテクニック以前に重要なことがあります。それは「考える」ということです。

話すという行為には大まかに次のプロセスがあります。
①見たことや聞いたことに何かを感じたり、それについて考えたりする
②その感じたこと、考えたことをもとに何を話すか決める
③決めたことを話す
④話したことに対する相手の反応を見る

このプロセスでは①②がとても大切であることがご理解いただけると思います。何を感じたか、考えたか。それについて何を話すと決めるか。これらは何れも「考えること」です。だから「話すことは考えること」なのです。先に述べた「うまく話すテクニック」はこのプロセスの③に属することです。これは①②で考えたことをどう表現するかというプロセスですので重要性では①②よりも劣後する問題なのです。

そして①②で自分が心から納得できる考え方ができれば、話す際にあがったり言葉に詰まったりといったことが少なくなります。自分で納得できることは多かれ少なかれ積極的に「話したい」という気持ちになるからです。あがり症を克服するためにも話す前にしっかりと考えることが大切なのです。

ところで、先日の2日間集中セミナーでこんなことがありました。受講生のMさんはスピーチ実習で次のようなスピーチ原稿を考えました。
・D社に新規営業の電話をかけ続けている
・D社の担当のSさんはいつも面倒くさそうな対応で面談のアポイントメントがなかなか取れない
・ある日D社に電話をかけたところ、取り次ぎの人が保留にしなかった
・「Sさん、Mさんから電話ですよ」「おお!Mさんからか。出るよ!」
・私(Mさん)はSさんに煙たがられていると思っていた
・しかし何度も電話をして話しているうちにSさんが私に親しみを感じてくれていることがこの会話で分かった
・思い切っていつもより大胆に面談をお願いしたらアポイントメントが取れた

この原稿を見て私はMさんにこのスピーチで何が言いたいか確認しました。Mさんは「アポイントメントが取れて良かった」ということを言いたいということでした。私は「なるほど。でももう少し深く考えるとこの話から主張できることは幾つか出てくると思いますよ」と告げて次のような例を示しました。
・継続は成功につながる
・人は自分が思うほど人を拒否しない
・時には少し厚かましくなろう
・相手の真意を読み取る努力をしよう
私の話を聞いたMさんはすぐに「ああ、そうです!私はこの時、継続することが大事だな、と思ったんです」と言って「継続は成功につながる」という主張で話すことに決められました。そしてその主張に沿って原稿を見直してとても聞き応えのあるスピーチをされました。

Mさんは原稿を作った当初は「こんなスピーチでいいのかな」と自信なさげでした。つまりスピーチ原稿を考えたけど納得感は今一つだったのです。そういう気持ちのままスピーチをしても自信を持って話すことができません。「つまらない話と思われているのではないか」という恐れにつながり緊張が高まってあがってしまうのです。しかし、自分で「これだ!」と納得できる主張を軸に話をすれば気持ちが前向きになって迫力のある話し方になります。その分あがり症は抑えることができます。

テクニックを身につけることも必要ですが、その前に気持ちの持ち方が話す上ではとても大切です。そしてそのためには話す前にきちんと考えることがとても重要なのです。

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